民法は、正当防衛を以下のように定義しています。

他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。(民法720条1項)

source:elaws.e-gov.go.jp

民法における正当防衛の例と損害賠償

例えば、怪しい男が武器を持って襲い掛かってきたため、Aさんがそばに駐めてあった誰かの自転車を押し倒して、男が近づいてくのを防いだ場合。

第三者(ここでは自転車の持ち主)は自転車が傷つけられるという損害を被っています。

しかし、Aさんの行為が正当防衛であるとみなされたため、Aさんには第三者の自転車を弁償する必要はありません。ちなみに、第三者は男へ賠償請求をすることは可能です。

正当防衛の判例をチェック!

それでは、実際に正当防衛が認められた刑事事件を6つ確認してみましょう。判例を見ることで、正当防衛への理解がより深まるはずです。

事例1:西船橋駅ホーム転落死事件(1986)

1986年1月14日の夜23時頃、千葉県の西船橋駅で起こった有名な事件。当時41歳の女性に対して、酔っ払いの男性(当時47歳)が罵声を浴びたり、小突いたりと嫌がらせをしました。そして、男性が女性のコートを掴んできたためもみあいとなってしまいます。

女性は男性と距離をおくため、男性を突き飛ばしました。男性はそのままホーム下へ転落。他の客が助けようとしましたが、ホームへ侵入してきた電車にひかれてしまいました。

女性は傷害致死で起訴されましたが、1987年の9月17日、女性の行為は正当防衛と認められ無罪となりました。

事例2:暴漢からナイフを奪い反撃(2013)

2013年12月3日の夜7時半ごろ、東京都足立区の路上で、女性がジョギング中に見知らぬ男からナイフを突きつけられ、声を出さないよう脅されました。

男性は女性へ乱暴を加えますが、男性の手からナイフが離れたのを確認した女性は、地面に置いてあったナイフを手に取り男性の太ももを刺して逃走。通行人へ助けを求め、警察へ通報。

警察が駆け付けたところ、男性は出血多量で現場へ倒れていたそうです。そのまま病院へ搬送されましたが、亡くなってしまいました。

女性は傷害致死の疑いもかけられましたが、正当防衛で不起訴となるのでは、と言われていました。2013年以降この事件に関する報道がないため、正当防衛と判断されたのでは、と考えられます。

事例3:警察による発砲(2006)

2006年6月23日、栃木県で警察官がATM付近で様子のおかしい2人を見つけます。職務質問しようと話しかけたところ、2人は逃走。

そのうち1人が民家へ逃げ込んだところを警官が追うと、民家庭の石で出来た灯篭を持って攻撃してきたり、銃を奪おうと抵抗してきました。警官は身を守るため発砲し、相手の腹部へ命中。1時間半後に亡くなりました。

2人は中国人で、逃走していた1人はその後不法滞在で逮捕。亡くなった1人は書類送検となりましたが、遺族が警官と栃木県に対して裁判を起こしました。拳銃を使用しなければならない状況だったのか、警棒や威嚇射撃による制圧をまず試すべきでは、という指摘もありましたが、正当防衛が認められました。

事例4:襲い掛かってきた長男と揉み合いに(2016)

2016年9月21日、71歳の男性が帰宅すると、65歳の妻が43歳の長男により刃物で怪我を負わされているのを発見。

長男は帰宅した父親にも刃物を持って襲い掛かり、そのままもみ合いになってしまったところ、息子を刃物で切り付けてしまいます。その後、男性は警察へ通報。妻と長男は病院へ運ばれましたが亡くなってしまいました。

男性は殺人罪の容疑で逮捕されましたが、それから3カ月後の12月28日、正当防衛であった可能性が否定できないとして不起訴となりました。

事例5:掴みかかってきた上司を殴打(2016)

2016年11月13日、元配管工の男性が同室に住む上司の男性の顔を数回殴打した結果、上司の男性は衝撃が原因のくも膜下出血で亡くなってしまうという事件が起きました。

検察は、元配管工の男性を傷害致死罪で起訴。当時上司の男性は酒に酔っており、元配管工の男性による一方的な暴力だと主張しました。しかし、事件から1年後の9月22日、当時上司の男性の方から胸ぐらを掴んできたうえ、殴ろうとしてきたということから、正当防衛が認められました。

事例6:絡んできた酔っ払いを殴打

出版コンサルタント、芸能プロダクション経営者として働く吉野量哉さんは、飲み屋街で酔っ払いの男性に暴言、暴行を加えられます。相手はかなり酔っていたのか、酒癖が悪いのか、こちらが相手の攻撃を防いでいると向こうはどんどん勢いを増してきます。

このままでは危ない、と思った吉野さんが相手の顔へパンチを一発食らわせると相手はそのまま転倒。病院へ運ばれ、脳挫傷と出血が原因で亡くなってしまいます。

そして、吉野さんは裁判を起こされます。検察側の主張は暴行による傷害致死罪、現場の目撃者による吉野さんが有利だったという証言を引っ提げていました。

一方弁護側は、転倒した男性が普段から酒癖が悪かったことなどの証言を別の現場目撃者から集めていました。また、男性が少しの刺激で出血してしまう持病を抱えていたことも発覚。

吉野さんは正当防衛で、無罪となりました。

正当防衛はいざというときの行為!【総括】

正当防衛は、それが差し迫っている危機へ対してのやむを得ない場合のみ認められます。なお、その線引きは曖昧で、客観的な判断にゆだねられます。度を越してしまうと過剰防衛だとみなされることもあります。

正当防衛と似た概念で緊急避難というものもあります。いずれにせよ、違法に危害を加えられる際は、出来る限りのことをする。相手を攻撃するのではなく、とにかくまずは逃げることを考えることを優先しましょう!

なお、海外で起きた正当防衛の事件や判例も、以下の記事でまとめてみましたので興味がある人はぜひチェックしてみてください!

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